このページは、事業譲渡における、債務を引き受ける旨の広告(会社法23条)とはどのようなものかについて説明しています。

譲受会社が、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける広告をしたときは、当該債務について弁済責任を負います(会社法23条1項)。では、この「債務を引き受ける広告」とはどのようなものなのでしょうか?

1 はじめに

譲受会社が、譲渡会社の事業によって生じた債務を引き受ける広告をしたときは、当該債務について弁済責任を負います(会社法23条1項)
例えば、取引先に対する挨拶状などで、「事業を承継しました」とのみ記載すると、承継したと認定される可能性もありますので、注意が必要です。

以下、裁判例をご紹介します。

2 譲受人が弁済の責を負うとされた裁判例

会社法23条の適用ないし類推適用により、譲受人が弁済の責を負うとされたものとして以下のような裁判例があります。

最判S29.10.7「譲渡人の営業に因つて生じた債務を引受ける旨を広告するというのは、同条の法意から見て、その広告の中に必ずしも債務引受の文字を用いなくとも、広告の趣旨が、社会通念の上から見て、営業に因つて生じた債務を引受けたものと債権者が一般に信ずるが如きものであると認められるようなものであれば足りると解すべきである」
東京高判S35.7.4 「『営業の継承』ということは通常『営業の譲受』すなわち『営業の譲渡』ということに解せられ、そして、『営業の譲渡』とは先に説示したように、一定の営業目的によつて組織化された有機的一体としての機能的財産の移転のことであり、その機能的財産といううちには営業によつて生じた債務も含まれるから、右通知状は、特別の事情のない限り、『Yにおいて甲の営業を譲り受け、且つその債務を引き受ける』旨の表示を含むものと認めるのが相当である。」

3 譲受人が弁済の責を負わないとされた裁判例

以下の裁判例では、債務引受の広告にあたらないとして、譲受人の責任は否定されています。

最判S36.10.13挨拶状に、三会社が小異を捨て大同に就き新にY社が設立せられて新社名の下に業務を開始することになつた旨等が記述されていた事案につき、「単なる挨拶状であつて、旧三会社の債務を控訴会社において引受ける趣旨が含まれていない」としました。
  東京地判S34.4.27「業務全般を引継ぎ製造設備、人員の増強を実施し全員清新の気をもつて生産に邁進し得る運びとなりました。」旨の挨拶状につき、「商人の業務全般を引継いだという表示は当然にはその商人の営業上の債務全般を引き受ける旨の表示と解釈するのは困難といわねばならない。・・・挨拶状が一般取引関係者に配布されたこと及びその書面の記載は一般の挨拶状の形式に出ないものである点等諸般の事情に鑑み右の記載は債務引受の意思を表明したものと見ることはできないものという外はない。」としました。
  名古屋地判S51.11.19「Yは、その水門建設部門として、甲社を吸収合併して、今後の発展を期する」旨の書面を印刷してこれを甲社の顧客である数社に配布した(原告Xには配布していない)事案で、「前記認定の挨拶状の趣旨が甲社からYへの営業譲渡ないし水門建設業務の承継を意味するものと解されるとしても、右挨拶状に前説示のような意味における債務引受の趣旨が含まれているものでないことは明らかである。」としました。
東京高判H10.11.26「甲社として十七年間お引立てをいただいておりましたが、この度、建設機材の大手メーカーであります乙社との提携により設備配管部門を独立させ、Yを設立する運びとなりました。」との挨拶状につき「本件挨拶状が単なる挨拶状の域を越え、その記載から営業譲渡と共に甲社の債務引受を表示したものとまで認めることはできない。」としました。