このページは、事業譲渡に該当する場合とは? 事業譲渡に該当するか否かの判断基準について説明しています。
事業譲渡に該当した場合と、そうでない場合では、必要な手続が全く異なりますので、事業譲渡に該当するか否かの判断基準は重要です。
1 判断基準の必要性
事業譲渡に該当する場合、一般的に株主総会決議などの厳格な手続が要求されますので、事業譲渡に該当するか否かの判断は重要です。
厳格な手続が要請されている事業譲渡とは、「事業の全部又は重要な一部の譲渡」です(会社法467条1項1号、2号)。
逆に言えば、「事業の全部又は重要な一部の譲渡」に該当しなければ、厳格な手続は求められません。そこで、「事業の全部又は重要な一部の譲渡」に該当するか否かの判断が重要になります。
なお、事業の全部又は重要な一部を譲渡する事業譲渡に該当せず、株主総会の特別決議が不要としても、「重要な財産の処分」に該当すれば、取締役会決議が必要となります(会社法362条4項1号)。
2 事業譲渡の定義
判例は、事業譲渡とは「一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法25条(現在の会社法21条)に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいうもの」としています(括弧内は加筆。最判40.9.22)。もっとも、必ずしも明確ではありません。
また、事業の「重要な一部」に該当するか否かの判断基準には諸説ありますが、譲渡される資産が純資産額の5分の1を超える場合(事業の重要な一部の譲渡であっても株主総会の承認を必要としない基準として会社法467条1項2号括弧書きが定める基準)には、事業の重要な一部として、株主総会の承認を得ておくことが無難と考えられます。
3 事業譲渡に該当しないとされた裁判例
「事業譲渡」に該当しないとされた裁判例として以下のものがあります。多くの裁判例は、原告が、事業譲渡に該当するにもかかわらず株主総会決議がなく、事業譲渡は無効であるとして争った事例です。
裁判例 | 説示内容 |
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最判40.9.22 | 休業中の会社が営業用財産を譲渡した事案で、営業活動の承継もなく、譲渡会社が競業避止義務を負うこともないことから営業譲渡に該当しないとしました。
裁判例の詳細を見る 休業中の会社が営業用財産を譲渡する場合に、株主総会の特別決議が必要であるか否かが争われた事案です。 本判決は事業譲渡を「 一定の営業目的のため組織化され、有機的一体として機能する財産(得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含む。)の全部または重要な一部を譲渡し、これによって、譲渡会社がその財産によって営んでいた営業的活動の全部または重要な一部を譲受人に受け継がせ、譲渡会社がその譲渡の限度に応じ法律上当然に同法25条に定める競業避止義務を負う結果を伴うものをいう」として、 営業活動の承継もなく、譲渡会社が競業避止義務を負うこともないことから事業譲渡に該当せず、株主総会決議は不要としました。 |
東京高判S50.9.22 | 倒産状態にある会社Xが、土地、建物を含む一切の資産を、債権者委員会の意向に沿って債務整理する目的で債権者委員長甲に譲渡し、さらに甲からYに譲渡した事案につき営業譲渡にあたら ないとしました。
裁判例の詳細を見る 倒産状態にある会社Xが、土地、建物を含む一切の資産を、債権者委員会の意向に沿って、債務を弁済、整理する目的で、債権者委員長甲に譲渡し、さらに甲がYに一括してそれらを譲渡したケースで、XがYに対して事業譲渡の株主総会決議がなく無効であるとして所有権移転登記抹消等を求めて提訴したところ、第1審がXの請求を認めたためYが控訴しました。 本判決は「Xから甲委員長への右譲渡の時点ではXの営業的活動はすでに不可能の事態に立ちいたつていて、他にこれを承継させるすべもない状態であつたのみならず、同譲渡は、同会社がその債務の弁済にあてる目的のもとに事実上の整理の一方法としてなされたものであることはこれまた前判断のとおりであつて、営業活動の承継を伴うものではないことが明らかである。」として事業譲渡に当たらないとし、原判決を取り消し、Xの請求を棄却しました。 |
東京地判55.5.12 | Yが、その所有する土地・建物を代物弁済のため債権者甲に譲渡したうえで、Yが債権者甲から右土地・建物を賃借して営業を継続した事案につき(その後、甲は当該土地建物をXに譲渡し、賃貸人の地位もXに移転した)、事業譲渡にに該当しないとされました。
裁判例の詳細を見る Yが、その所有する土地・建物を代物弁済のため債権者甲に譲渡し、更に債権者甲から右土地・建物を賃借して自己の営業を継続していた。甲は当該土地建物をXに譲渡し、賃貸人の地位もXに移転したところ、Yが賃料を滞納したためXがYに対して賃貸借契約解除に基づく建物明渡しを求めて提訴しました。Yは、甲に対する代物弁済が事業譲渡に該当するところ、株主総会決議がなく無効であるなどして争いましたが、「本件代物弁済においては、譲受人たる甲においてYが本件土地建物等によって営んでいた営業的活動の全部又は重要な一部を受継いだ訳ではなく、かえって、譲渡人たるYがさらに本件土地建物等を甲から賃借して自己の営業を継続したものであることは当事者間に争いのないところであるから、本件代物弁済が営業譲渡に該当しないことは明白」であるとして、Xの請求を認容した。 |
東京地決59.9.7 | Yは経営不振に陥ったため、合理化の目的で新たに甲を設立し、甲に対し一工場の土地・建物・機械装置等を売却したうえで、Yは解散し清算手続きに入った事案につき、事業譲渡にはあたらないと説示されました。
裁判例の詳細を見る Yは経営不振に陥ったため、大株主・大口債権者から派遣された役員が中心となり、合理化の目的で新たに甲を設立し、甲に対し一工場の土地・建物・機械装置等を売却したうえで、Yは解散し清算手続に入った。そこで、Yの株主であったXが、事業譲渡でもあるにもかかわらず株主総会の特別決議を欠くなどとして、検査役の選任を求めて提訴しました。本決定は「Yは右認定のような経営環境のもとにおいて、門司工場をも合理化の対象とし、新たに甲を設立したうえ、これに門司工場の土地・建物・機械装置等を売却したことが認められるところ、これは現業部門の各個の営業用資産の譲渡であって、組織化された機能的財産としての営業の譲渡ではない」から、事業譲渡の手続を経る必要はないとした。 |
旭川地判H7.8.31 | ゴルフ場不動産の譲渡に際し、営業を開始するに当たってはその重要な点を大幅に変更していること、人的側面については法律上一切承継していないこと、名称、会員構成等が異なり、事実上の同一性、一体性も認められないことなどから事業譲渡に該当しないと説示されました。
裁判例の詳細を見る ゴルフ場を経営するXが、所有する不動産及び動産のほとんど全てをYに一括譲渡したものの、Yが営業の開始に当たってXのゴルフクラブの会員を承継しなかったため、XYの契約が事業譲渡にあたるか否かが問題となりました。 本判決は「ゴルフ場経営に際し、個別財産がその営業目的のため組織化され、有機的一体として機能するために最も重要な要素となるべきものは、いわゆる『ゴルフクラブ』としての組織性、一体性であり、これはゴルフクラブの会員、会員で組織される理事会等の各種委員会及び従業員等の人的側面とゴルフコース及びクラブハウス等の物的側面から構成されるものであるところ、本件(二)売買契約において、Yは物的側面(不動産及び動産類)のほとんど全てを譲り受けたものの、Yが営業を開始するに当たってはその重要な点を大幅に改良しており、同一性は認められない。また、『旭川X国際カントリークラブ』の人的側面については、法律上一切承継していない。また、『Yカントリークラブ』と『旭川Xカントリークラブ』との間では、その名称、会員構成等が異なり、事実上の同一性、一体性も認められない。旭川X国際カントリークラブの営業状況、従前の評価からすれば、Yがその営業自体の価値を評価しておらず、営業を同一性をもって承継することを望んでいなかったものであり、むしろ、その影響を最小限に抑えたかったこと、そして、現実に営業を開始した際にもXの営業を同一性をもって承継していないことは明らかである。・・・また、当事者間の主観的な意図についても、営業譲渡となることを回避していたことが認められる。この点、契約書等に『営業譲渡』あるいは『経営権の譲渡』等の文言が存在するが、契約条項の具体的な規定には、個別の財産を本件ゴルフ場経営の営業目的のため組織化し、有機的一体として機能させるための具体的な条項及び従前の営業活動を承継させるための具体的な条項はなく、営業譲渡と認めるべき具体的な内容は認められない。」として事業譲渡に当たらないとしました。 |