このページは、事業譲渡契約で定めるべき事項及び、事業譲渡のクロージング(実行日)において具体的に実行すべき内容について説明しています。

事業譲渡で行うべきは、資産(及び負債)の承継と、従業員の承継になりますので、譲渡対象を事業譲渡契約書で明確にしたうえで、クロージングでは承継手続を実行することになります。
従業員の承継については、紛争となることも多いので、注意が必要です。

1 事業譲渡契約に定めるべき事項

事業譲渡契約に入れるべき内容は、概要以下のとおりです

⑴ 事業譲渡の対象

事業部門で特定する場合と、細かく対象資産等を特定する場合があります。
いずれにしても、事後の紛争を避けるため、疑義の無いように定めることが肝要です。

事業譲渡の対象を特定するために,別紙で対象となる資産を細かく指定することもあります。
特に事業の一部の譲渡である場合や,破綻した会社から譲り受ける場合には,偶発債務の引受けを避けるために,細かく指定をすることが多いようです。この場合、固定資産台帳などを参考に作成をしますが、作成にはかなり時間がかかることもありますので、時間に余裕をもって作成にとりかかる必要があります。

⑵ 譲渡条件

①譲渡価格、支払方法
②効力発生日

⑶ 資産等の引渡方法

動産については占有移転。不動産については移転登記と定めることが多いです。
なお、対抗要件の具備に相当な費用がかかることがありますが、全て買主負担とされることが一般的です。

⑷ 役員・従業員の処遇や、譲渡対象従業員など→以下の4もご参照下さい。

譲渡会社の一部の従業員のみを採用する場合、採用しない従業員につき雇用契約が承継されている旨の認定がされないように注意する必要があります。
そこで疑義が生じないように、①承継従業員の範囲、②承継方法(退職+再雇用か、雇用契約の承継か)を契約書に明記することもあります。
また、従来の年金制度や退職金制度などを承継しないのであれば、その点を明確に定めておき、従業員にも周知しておく必要があります。

譲受会社で譲渡会社の雇用条件を変更することは可能です。譲受会社での労働条件の取り扱いを譲渡契約で定めることもあります。
なお、譲受会社は、条件変更によりキーパーソンが退職するなどして事業が毀損しないように留意する必要があります。

⑸ その他

上記の他に、以下のような事項を定めるのが一般的です。

当事者の表明・保証
②売主の競業避止義務:事業譲渡会社は法律上当然に競業避止義務を負いますので(会社法21条),仮に競業避止義務を解除しておく場合は,その旨を明確にしておく必要があります。

上記のうち、②表明保証については、以下のリンク先もご参照下さい。

2 クロージング(実行日)において実行すべき事項① 資産の移転

資産の移転は、通常の手続通りに行われます。代表的な資産について整理すると以下のとおりです。

資産の種類通常の移転手続
不動産登記(民法177条
動産引渡し(民法178条)又は動産譲渡登記(動産・債権譲渡特例法3条1項
自動車登録(道路運送車両法5条
株式①発行会社に対する対抗要件 株主名簿の名義書換え(会社法130条、振替法161条3項
②発行会社以外の第三者に対する対抗要件
(株券不発行会社の場合) 株主名簿の名義書換え(会社法130条
(株券発行会社の場合) 株券の引渡し(会社法128条
(振替制度適用会社) 譲受人口座への記載・記録(振替法140条
預託金性ゴルフ会員権①ゴルフ場の運営者に対する対抗要件 名義書換え
②ゴルフ場の運営者以外の第三者に対する対抗要件 確定日付ある証書による通知又は承諾(最判H8.7.12
約束手形裏書譲渡(手形法11条1項
特許権、実用新案、商標登録(特許法98条、実用新案法26条、商標法35条
債権確定日付ある証書による通知又は承諾(民法467条)又は、債権譲渡登記及び債務者に対する通知又は債務者の承諾(動産・債権譲渡特例法4条

3 クロージング(実行日)において実行すべき事項② 資産以外の移転

⑴ 債務引受

事業譲渡において、譲渡会社の既発生の債務を譲受会社が承継するか否かはケースバーケースです。

仮に承継する場合、免責的債務引受(譲渡会社が債務を負わなくなる場合)であれば、債権者の承諾が必要になります。重畳的債務引受(譲渡会社が引き続き債務を負い続ける場合)であれば債権者の承諾は不要です。

⑵ 契約上の地位

一般的に相手の承諾が必要なので、契約相手の承諾を得ます。
なお、契約上の地位移転が解除事由になっている場合もあるので注意が必要です。

4 クロージング(実行日)において実行すべき事項③ 従業員の移転

ア 従業員の移転に関する基本的な考え方

事業譲渡においては、従業員の地位は承継されず、譲受会社で譲渡会社の従業員を雇用するためには個別に従業員の同意(承諾書)を取る必要があります。

当該労働者、譲受会社の同意があって初めて労働契約は、譲渡会社から譲受会社に承継されます。仮に事業譲渡契約で労働契約の承継を定めても、承継に当たっては従業員の個別の同意が必要です(東京高裁H17.7.13、東京地裁H9.1.31)。また、この同意は入社時の包括的同意では足りないとされています(東京地決H4.1.31)。

また雇用条件も承継されないのが原則です(参考裁判例 東京高判H16.11.16 大阪地判R3.3.26。もっとも、事業譲渡契約の文言が一部公序良俗に反し無効であるとしたうえで、雇用関係が承継されるとする裁判例(東京高判H17.5.31)もあるので注意が必要です。

一方で譲受会社に、譲渡会社の労働者全員を雇用する義務はありません。
しかしながら、事業譲渡の実態からみて、譲渡会社の事業が一体性を損なうことなく譲渡され、また、在籍した従業員のほぼ全員が譲受会社に雇用されているような場合には、事業譲渡により雇用契約も承継されたものと解された裁判例もあります(大阪地裁H11.12.8他)。事業譲渡に際し、労働契約を承継させない場合には、事業譲渡契約に明記しておくことが必要だと考えられます。

⑵ 事業譲渡において、雇用契約は承継されないとした裁判例

裁判例説示内容
東京高判H16.11.16労働条件が転籍した従業員適用されるには、個別同意が必要であるとした裁判例
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「使用者がその営業を他に譲渡した場合には,使用者と営業譲渡の対象とされた業務に従事していた被用者との間の労働契約上の地位は,営業譲渡当事者間において特段の定めをしない限り,譲受会社に承継され,この場合の労働条件については,譲受会社の就業規則の定めその他の労働条件が転籍した被用者に当然に適用されるものではなく,転籍した被用者にその適用がされるためには,当該被用者がこれらの労働条件に同意することが必要であると解するのが相当である。」としたうえで「転籍を希望する旧会社の従業員は,全員,本件誓約書を提出することによって,新人事制度の下でのバンド及び新たな基本給に同意するとともに,新人事制度を規定した新給与規定等の遵守に努める旨の意思を表明しており,新給与規定等に対して個別的な同意を与えていたことが認められるから,控訴人らを含む転籍者の労働条件は,新給与規定等によって規律されることになると解すべきである。」
大阪地判R3.3.26事業譲渡契約に退職金債務を譲受人が引き受ける旨の合意があったとは認められず、また譲渡人は退職金債務は譲渡人が支払う旨を伝えていたとして退職金債務は承継されないとした裁判例
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甲社のYに対する事業譲渡にともない、甲社からYに転籍したXが、甲社の退職金規定がYに承継されたとして訴訟提起したところ、本判決は「本件事業譲渡契約において、甲社は、本件店舗等の従業員が望めば、勤務地、給与、地位等の条件を変えることなくYにおいて雇用を維持することを約したにすぎず、Yにおいては退職金の定めがないこともあって、Yによる雇用を望む従業員とは新たに雇用契約を締結し直すことが予定されていたものであり、Xについても、本件雇用契約書及び本件労働条件通知書の内容で、Yと新たな雇用契約を締結したというべきである。」としてXの請求を認めませんでした。
東京高裁H17.7.13 事業譲渡において、雇用関係の承継を認めなかった裁判例
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専門学校を経営していた甲学園が経営破綻し解散することとなったところ、Y社が甲学園から事業譲渡を受けることとなった。ところが、Y社は、甲学園に勤務していたXを採用しなかった。YがXとの雇用契約不存在確認の訴えを、XがYに対して雇用関係の確認を求める反訴を提起したところ、第1審は、Xの請求を認めたためYが控訴した。
本判決は、「学校教育事業の承継が営業譲渡に類似する行為であるとしても、営業譲渡契約は、債権行為であって、契約の定めるところに従い、当事者間に営業に属する各種の財産(財産価値のある事実関係を含む。)を移転すべき債権債務を生ずるにとどまるものである上、営業の譲渡人と従業員との間の雇用契約関係を譲受人が承継するかどうかは、譲渡契約当事者の合意により自由に定められるべきものであり、営業譲渡の性質として雇用契約関係が当然に譲受人に承継されることになるものと解することはできない。従業員が営業の人的施設として、その人的組織の持つノウハウの承継も営業譲渡の目的に含まれるときなどは、譲渡契約において雇用契約関係の承継が合意されるであろう。営業譲渡において、原則的に従業員が営業の構成部分(有機的一体としての財産)として譲受人に移転されるべきことを根拠づけるような実定法上の根拠はない。そして、上記のとおり・・・本件覚書に基づき、甲学園が・・・全員を解雇するものとし、これにより甲学園を退職した教職員のうち、Yに採用を希望する者の中から、合計141名をYの雇用する教職員として新規に採用したものであって、甲学園と新法人(Y)との間に、その雇用契約関係を承継しない旨の合意があったことが明らかである。」として、Xの請求を棄却した。
東京地裁H4.1.31Yは、営業部門を分離独立させ、甲社を設立し、営業部門に勤務するXを含む従業員全員に対して発した甲社への転籍出向命令の効力につき、無効とした裁判例。
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Yは、営業部門を分離独立させ、甲社を設立し、営業部門に勤務する従業員については全員を甲社へ「転籍出向」させる旨内示したところ、Xが拒否した。Yは、Xを説得したものの結局説得に応じなかったためXを解雇したところ、XがYに対して解雇無効を主張し、Yに対して従業員たる地位保全の仮処分の申立てをした。
本決定は「XがYに入社した際の就業規則には、・・・ただ『会社は……出向を命ずることがある。』とするだけでその具体的な内容を規定する出向規定も作られておらず、・・・就業規則に右規定があったというだけでは在籍出向についてさえ、Xの包括的な同意があったと解することには極めて疑問があると解さざるをえない。 ・・・転籍出向につきXの包括的同意があったとは認め難く、他にこれを疎明する資料はない。そして、前述のように、転籍出向は出向前の使用者との間の従前の労働契約関係を解消し、出向先の使用者との間に新たな労働契約関係を生ぜしめるものであるから、それが民法六二五条一項にいう使用者による権利の第三者に対する譲渡に該当するかどうかはともかくとしても、労働者にとっては重大な利害が生ずる問題であることは否定し難く、したがって、一方的に使用者の意思のみによって転籍出向を命じ得るとすることは相当でない。
 ただ、現代の企業社会においては、労働者側においても、労働契約における人的な関係を重視する考え方は希薄になりつつあり、賃金の高低等客観的な労働条件や使用者(企業)の経済力等のいわば物的な関係を重視する傾向が強まっていることも否定できず、また使用者側においても企業の系列化なくしては円滑な企業活動が困難になり、ひいては企業間の競争に敗れ存続自体が危うくなる場合も稀ではないことからすると、いかなる場合にも転籍出向を命じるには労働者の同意が必要であるとするのが妥当であるか否かについては疑問がないではない。しかしながら、希薄になりつつあるとはいえ労働契約における人的関係の重要性は否定することはできず、また契約締結の自由の存在を否定することができない以上、右のような諸情勢の下にあってもなお、それが常に具体的同意でなければならないかどうかはともかく、少なくとも包括的同意もない場合にまで転籍出向を認めることは、いかに両社間の資本的・人的結びつきが強く、双方の労働条件に差異はないとしても、到底相当とは思われない。
 本件の場合においては、両社の間には右物的な関係においても差異がないとまではいい難いうえに、Xは本件転籍出向につき具体的同意はもちろん包括的な同意もしていなかったのであるから、右同意を得ないでしたYの本件転籍出向命令は無効という外はない。」などとして、仮処分を認めた。
東京地裁H9.1.31事業譲渡契約に当たり、雇用条件を限定して承継するためには従業員の同意又は承諾を要するとした裁判例
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Yは倒産状態となり、大口債権者であった甲社から支援を受けるようになり、Y及び甲社は、Yの工事部門関連の営業を平成6年1月1日付けで甲社に譲渡するという内容の事業譲渡契約を締結した。当該事業譲渡契約書には、Y従業員の雇用関係の引継ぎに関し、その第六条に、「譲渡日現在における甲(Y)の従業員を乙(甲社)は引き継ぐものとする。但し、勤務年数については、昭和60年7月25日以降の期間を引き継ぐものとする。」との条項が設けられていた。Y従業員に対する説明では、甲社の社員となるということ及び甲社は、基本的にYの労働条件を引き継ぐということであった。なお、使用者が、Yから甲社に変わるに当たり、従業員が社長、副社長その他の者から、「解雇する。」との趣旨のことを言われたことはなかった。その後、平成6年3月31日に甲社を退職をした従業員Xらが、Yに対して退職金の支払を求めて提訴したところ、退職金計算に当たり、甲Y間の合意(退職金計算の期間制限)の適用があるか、自己都合退職か会社都合退職かなどが問題となった。
本判決は「企業間において営業譲渡契約がなされるに当たり、譲渡する側の会社の従業員の雇用契約関係を、譲渡される側の会社がそのままあるいは範囲を限定して承継するためには、譲渡・譲受両会社におけるその旨の合意の成立に加え、従業員による同意ないし承諾を要すると解される。そこで、本件においてXらによる右の同意あるいは承諾が存したか否かにつき検討する。右に認定した事実関係によれば、社長及び副社長は本件営業譲渡契約締結の事実につき、従業員を集団的に集めた状態で、事後的に、包括的・抽象的な説明を行ったのみであり、しかも、甲社がYから承継した従業員の勤続年数は大きく制限されていたにもかかわらず、それについての明確な説明がなされた事実も窺えないことからすれば、単にXらが右説明の際に明確な異議を申し出ず、平成六年一月一日から甲社の従業員としての勤務を開始したことをもって、右にいう同意ないし承諾がなされたとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠もない。そうすると、YとXらの雇用契約関係は、甲社に当然には承継されず、使用者がYから甲社に切替わる平成五年一二月三一日の時点でいずれも一旦終了したものであり、右両Xは、同日をもってYを退職したと理解できる。・・・また、右事実認定の下では、・・・Y退職に当たり、Yによる解雇の意思表示が存したとは認められず、他にこれを認めるに足りる証拠もないので、右各Xの退職理由は、Yの退職の申込みを右各Xが承諾したことによるものであると理解するのが相当であり、合意退職と認められる。」として自己都合退職金の支払を認容した。

⑶ 事業譲渡により労働契約が承継されるとした裁判例

裁判例説示内容
大阪地裁S39.9.25旧病院が解散し、新病院が設立されたケースで、事業主体の継続性に着目して雇用関係が旧病院から新病院に承継されたとした裁判例
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理事甲、Yの共同事業であつた旧病院Aが甲の脱退により解散し、新たにY、乙の共同事業による新病院Bが設立された。そこで旧病院Aの従業員XらがYに対して、従業員としての地位確認を求めた。
本判決は、「前記認定した事実によれば、新病院Bは旧病院Aの業務内容をそのまま承継して開設されたことが明らかであり、甲と乙間において特に明示的な取決めはなされていないが、両者共従業員の雇傭関係を含めた企業の承継を意図していたことが認められるから、旧病院Aと従業員の雇傭関係は、前記事業主体の異動に伴い、甲の院長辞任と共に一旦乙に承継されたうえ、同人とYの共同事業である新病院B発足により更に同人から右新病院Bに承継され形式的にはYが雇傭関係の当事者となつたものと考えることができる。 Yや乙が、新病院B発足後間もなくXらに対し、Xらを新病院Bに採用していないとの理由で就労を拒むに至つたことは前に認定したとおりであるが、前記企業承継のいづれの過程においても、当事者である経営主体相互の間で、従業員の雇傭関係のうち特定範囲の個別的な労働契約のみを承継しない旨の特別な合意がなされたと認めるべき疏明はないのであるから、Xらを含め旧病院Aの従業員の雇傭関係は、その全部がY経営の新病院Bに承継されたと解するほかはなく、旧病院Aの従業員であつたXらは新病院Bの発足と同時に同病院の従業員たる地位を取得したと認められる。」として、Xらの請求を認めた。
大阪地裁H11.12.8子会社の解散前に解雇された子会社従業員につき、解雇が無効であり、親会社との間で雇用関係が継続することを認めた裁判例
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甲社は経営悪化により、主要な資産を親会社であるY社に売却したうえ、解散した。甲社の解散時の従業員は全員がY社に雇用されていたが、Xは解散前に甲社から解雇通知をされており、XはY社に雇用されていなかった。
そこでXは、法人格否認などを理由に、Yに対し、従業員たる地位の確認を求めて提訴した。
本判決は、解雇回避努力義務が尽くされたとはいえず、選定の妥当性も認めがたいなどの理由で解雇を無効としたうえで、「右事実によれば、甲社とYとの間では、営業譲渡という契約形態こそとられていないが、甲社の資産売却に当たっては、それらの資産を使用してYが森林浴製品の製造販売事業を継続して行うことが予定されていたことは明らかであって、それに必要な殆どの資産が売却されており、右事業の側からみると、その一体性を損なうことなく甲社からYへ譲渡されたものであって、単にその経営主体が甲社からYに代わったにすぎないというべきである。そうすると、甲社の資産売却がなされた頃、甲社からYへ営業譲渡がなされたものと認めるのが相当である。・・・そして、Yが甲社に在籍した従業員全員を雇用していることからすると、譲渡の対象となる営業にはこれら従業員との雇用契約をも含むものとして営業譲渡がなされたことを推認することができる。 前記のとおり、甲社がXに対してした本件各解雇はいずれも無効であり、右営業譲渡がなされた当時、Xはなお甲社に在籍したものと扱われるべきであるから、右営業譲渡によって、Xと甲社との間の雇用契約もYに承継されたものと解される。」などとしてXの請求を一部認めた。
東京高判H14.2.27経営破綻した法人から事業承継した他の法人において、経営破綻した法人で労働組合に加盟していた従業員の採用を拒否したことが、不当労働行為にあたるとされた事例
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甲医療法人は経営破綻し、Xに施設、備品、患者等を承継した。Xは甲医療法人が雇用していた看護科の従業員のうち、乙組合に加盟していた丙ら以外は全員雇用したため、丙らは、Xの採用拒否が不当労働行為であるとして労働委員会に救済申立をした。
地方労働委員会及び中央労働委員会Yは、いずれも丙らの申立を容れXへの雇用等を命ずる救済命令をしたため、XはYに対し、救済命令の取消を求めて提起した。第1審がXの請求を棄却したため、Xが控訴した。
本判決は、丙らは、従来からの組合活動を嫌悪して解雇されたものに等しく、不採用は労働組合法7条1項本文前段の不利益取扱いに該当するとして、控訴を棄却した。
東京高判H17.5.31事業譲渡において、事業譲渡契約の文言が一部公序良俗に反し無効であるとしたうえで、雇用関係が承継されるとした裁判例
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Xらは甲の従業員であったところ、甲から事業譲渡を受けたYに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認等を求めて提訴したところ、本判決は以下のとおり判示して請求を認容しました。
「営業譲渡に伴い譲渡人がその従業員と締結していた労働契約が当然に譲受人に承継されるものではないから、本件労働契約が本件営業譲渡に伴い甲からYに承継されるか否かは、本件営業譲渡に当たり、Yと甲との間でその旨の特別の合意が成立しているか否かによることとなる。・・・甲及びYとの間・・・の合意中、Ⅱ(賃金等の労働条件が甲を相当程度下回る水準に改訂されることに異議のある同会社の従業員については、上記移行を個別に排除する)、Ⅲ(この目的を達成する手段として甲の従業員全員に退職届を提出させ、退職届を提出した者をYが再雇用するという形式を採るものとし、退職届を提出しない従業員に対しては、甲において会社解散を理由とする解雇に付する。)の合意部分は、民法90条に違反するものとして無効になることは、上記(原判決を引用)のとおりである。・・・なお、『乙(Y)は、営業譲渡日以降は、甲(甲)の従業員の雇用を引き継がない。ただし、乙は、甲の従業員のうち平成12年11月30日までに乙に対し再就職を希望した者で、かつ同日までに甲が乙に通知した者については、新たに雇用する。』との本件営業譲渡契約4条の定めも、上記の目的に沿うように、これと符節を合わせたものとして、民法90条に違反して無効になることも上記(原判決を引用)のとおりである。
(3)そうすると、上記(原判決を引用)のとおり、本件解雇が無効となることによって本件解散時において甲の従業員としての地位を有することとなるXら・・・は、・・・Yに対する関係で、本件営業譲渡が効力を生じる同年12月16日をもって、本件労働契約の当事者としての地位が承継されることとなるというべきである。
 したがって、Xら8名及び亡Iは、本件解雇の日の翌日である平成12年12月16日以降も、Yに対して本件労働契約上の権利を有するものであり、XAら7名がYに対し労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求める請求はいずれも理由があるから、認容すべきである。」