このページは、名義株式を整理する方法について説明しています。名義株式の問題点と、整理方法についてまとめました。
特に歴史がある会社においては、いわゆる名義株(=他人の名義を借用して、株式の引受及び払込がされた株式。)が存在する場合があります。名義株式の株主は、名義人(名義貸与者)でなく実質上の引受人(名義借用者)ですので(最判S42.11.17)、名義株は株主名簿上の株主と実際の株主がずれることになります。
1 名義株式の問題点
⑴ 名義株式の主な問題点
名義株を放置しておくと、本来権利主張できない株主名簿上の株主が、権利主張をしてくることがあります。そのため、株式の集約を行う前提として、名義株式を整理をしておくことが必要となります。名義株であることの証拠が散逸してしまう可能性があること、現経営者や名義株主が亡くなると事情がわからなくなること、さらには、名義株主に相続が発生することで整理が困難なるなどのことを考えると、名義株の整理はなるべく早く行うべきです。
⑵ 名義株式のその余の問題点
なお、本来は現経営者の所有にもかかわらず、名義株式を相続財産の対象から除外すると、相続人に重加算税が課される可能性があります(東京地判H18.7.19)。その意味でも、名義株式は整理をしておく必要があります。
東京地判H18.7.19(控訴棄却)
甲の相続人Xらが、甲名義以外でない親族名義の株式を相続財産から除外して相続税申告をしたところ、更正処分等を受け、訴訟に至りました。本判決は「株式の帰属を認定するに当たっては,株式の名義が重要な要素とはなるが,他人名義で株式を取得することも,特に親族間においては珍しくはないことからすれば,誰が株式購入の原資を出捐したか,株式売買の意思決定をし,株式を管理運用してその売買益を取得しているのは誰か,さらに,売却・購入を短期間に繰り返すことがなく,比較的長期間保有を続けている株式にあっては,その配当金を取得しているのは誰かもまた,その帰属の認定に際して重要な要素ということができることから,これらの諸要素,その他名義人と管理,運用者との関係等をも総合考慮すべきものと解される。そして、・・・その配当金はいずれも甲名義の口座に振り込まれており、株主届出印もその一部については甲名義の預金及び株式に係る届出印と同一の印章が使用されていた事実からすれば、その名義いかんにかかわらず当該株式が甲に帰属することが推認されるというべきである」などとして、相続財産に含まれるとしました。
2 実質上の引受人の判断基準
名義株主で問題となるのは、株主は名義人でなく実質上の引受人として(最判S42.11.17)、実質上の引受人をどのように判断するのかが問題となります。裁判例としては、以下のようなものがあります。払込をしたのが誰であるかだけではなく、払込をした者の意思も勘案して、引受人を判断をしていることがわかります。
東京地判S57.3.30
Y会社の設立時の発行株式のうち3000株及びその後の新株発行について、X名義で引受け払込みされた株式について、XがYに対してXがYの株主であることの確認などを求めて提訴をしました。
本判決は、設立時の株式については「Xが訴外甲の事実上の養子として、訴外甲の事業の後継者となるべくその経営に携わつてきたこと、XがYの代表取締役に就任するとともに訴外甲に代つてYの経理関係を担当していたこと、更には、Yの工場敷地についてX名義の所有権移転登記手続がされていることを考えると、右3000株は、単なるX名義の名義株ではなく、訴外甲がXのために右3000株の払込義務をXに代つて履行したものと認めるのが相当である。そうすると、Yの設立に際して発行された株式のうち、X名義の3000株は、Xが引き受けて払い込んだX所有のものといわなければならない。」としてXの請求を認めました。
一方で、その後の新株発行については「本件新株発行における払込みは、明らかに訴外乙ないしYの資金でもつて行われたいわゆる見せ金による払込みであり、実質的に払込みがあつたとは到底いえないのである。したがつて、本件新株発行は、・・・全額について払込みがなかつたものといわなければならず、その上、本件新株発行については、その旨の登記がされているので、結局、商法280条ノ13の規定より、本件新株発行当時の取締役がその新株全部を共同して引き受けたものと解するのが相当である。そうすると、本件新株発行における株式は、共有の形態でもつて本件新株発行当時の取締役に帰属しているものというべきであるから、その分割についての主張、立証がない以上、Xの単独所有にあるとは到底いえないことになる」としてXの請求を認めませんでした。
札幌地判H9.11.6
Xらの父甲がY社を設立した際に、Xら名義での株式が引き受けられた。XらがYに対して、株主権の確認を求めたところ、Yは名義株であり甲夫婦が株主であるなどとして争いました。本判決は「原告X1は、甲が高血圧症で倒れて十分な仕事かできなくなり、両親から家業の後を継いでほしいと要請されたため、大学進学を断念して、高校卒業後すぐに家業に従事するようになり、・・・病気がちの甲をよく助けて、給与の支給を受けることなく家業に専念し、・・・好調に業績を伸ばした。原告X2も、高校 業後に他に就職していたが、両親から家業を手伝うよう要請されて退職し、家業に従事するようになった。甲に家業を法人化すべきであると進言したのは原告X1であり、Yの株主や持ち株数の決定についても、原告X1は甲・・・との協議に積極的に関与した。・・・このような事実経過によれば、甲は、・・・原告X1ら3人の兄弟や、家業を手伝って・・・業務に従事するようになった原告X2には、名義だけではなく、実質的な株主として株式を保有させようとし、Xらにおいても、株式を保有して実質的な株主となることによって、法人化された家業にますます意欲的に携わっていこうとしていたものということができる。このことは、設立以後、代表取締役が甲、取締役が原告X1と・・・・という役員構成の下で、原告X1が業務全般の中心となってYの運営をしていたことからも、推認することができる。そうすると、甲は、実質的な株主としてXらに株式を保有させるため、Xらの株式の払込義務をXらに代わって履行したものと認めるのが相当である。」として、Xらの主張を認めました。
3 名義株整理の具体的方法
名義株の整理は名義株主との交渉になります。以下のような流れで交渉を進めることになります。
時系列 | 具体的対応 |
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名義株であることの証拠の収集 | 以下のような資料を集めます。 実際に出資した者がわかる資料、名義株に関する覚書(もしあれば)、事情がわかっている者の陳述書など。 |
名義株主と交渉 | 場合によっては、裁判が必要になります。 |
名義株主との合意(契約) | 書面は必ずしも必要ではありませんが、後にトラブルになることを防ぐために作成しておくべきと考えます。 |
株主名義の書き換え | 株主名簿の名義を真実の株主に変更します |